黒人失格

「期待感」というものがある。
辞書によると、期待できるような感覚や予感のこと、あるいは良い結果などになりそうだという期待のことらしい。
新しいゲームは事前の情報を見る限り面白そう。食べログを見るにあのラーメン屋さんは美味しそう。
こういったことだ。
だが、これが人にする期待感ではどうだろう?
それも外見からのものでは。
あの人は優しそうな顔だから怒らなそう。あの人は怖い顔をしてるからすぐ怒りそう。
実際これが当たってるかはともかく大抵の人は初対面の人に対して印象で決めるだろう。

僕が神田くんに会ったときもそうだった。

「あいつサッカー下手すぎん?」
それが神田くんへの僕の第一印象だ。
その日はクラスでサッカーをするという事になっていた。
野球しかせず、一切学校活動に参加していなかった僕だが流石に危機感を感じて初めてクラスに行き学生らしい行動をした日でもある。
当然クラスメイトは誰一人知らないが神田くんだけはその日に一発で覚えた。

「(あいつ黒人なのに)サッカー下手すぎん?」
正確にいうとこれが第一印象だ。
180センチを越えるであろう長身と、見てわかる筋肉質な身体つき。走るのも速い。しかも左利きの様だ。
だが、致命的なくらいにサッカーセンスがなかった。
なんなら女子のが上手かった。
止まったボール蹴ろうとして自分の脚蹴ってたし。

もちろんこれは僕が悪い。
黒人は皆サッカー上手いわけではないのだ。
コーナーキックの時思いっきり蹴ろうとして靴を飛ばしてたのも仕方ない。

サッカーが終わって僕は神田くんに
「サッカー下手すぎない?」と話かけてみた。
神田くんは急に話しかけられてびっくりしていたが笑って
せやねん、俺サッカーめっちゃ下手やねん」
と言った。
僕はなんで黒人なのに関西弁なんだよ、とか色々思ったが来月もサッカーだと俺はうれしいみたいな話をしてその日は終わった。

次に会ったのはたまたま授業のレポートを提出しに行ったときだった。
神田くんはめちゃくちゃ派手なピンクのDSでゲームをしてた。
話しかけて何のゲームをしてたのかというと
ポケモンをしてた」と言った。
ちなみにポケモンホワイトだった。僕は黒人ならブラックやれよ、と思っていた。

僕も奇跡的にポケモンブラックで厳選していたのでポケモンの話をして、交換したりして盛り上がった。
DSは妹さんのだったらしく、僕も妹のDSを使ってたので妹の話なんかもした。

そして神田くんの授業の時間になったのでメールを交換して別れた。

その日の夜、神田くんと電話をした。
神田くんは話しかけてくれて嬉しかったこと、実は最初に話しかけられたとき僕の顔が怖くてびびっていたこと、自分の両親はブラジル人たが一度も会ったことがなく、ずっと日本に住んでいるのに外国人扱いされるのが辛いことなどを話してくれた。

神田くんの関西弁は一緒に住んでいるおばさんが岡山弁をしゃべる影響ということ。サッカー下手すぎるのは右利きなのにカッコいいと思って、ロベルト・カルロスみたいに左で蹴ってるからということ。
ラブライブは面白いということ。
この辺はこいつアホやなと思っていた。

それから僕らはたまに遊ぶようになった。
学校の時間が合うときに2人でゲームをするというだけだったけど、とても楽しかった。

神田くんがミスをする度に僕が
「親にどういう教育受けてんねん」と言うと
「親に会った事はねぇんじゃ」という千鳥のノブさんみたいだけど、千鳥のノブさんが絶対テレビで言わないツッコミをしてた。

そして、一年が経って神田くんは卒業、僕は退学をしてお互い別れることになった。
いつか二人でラブライブの聖地である東京の神田明神に行こうと。
神田だけに。

あれから僕らは一度も連絡をしていない。
メールアドレスを失くしてしまったのとお互い名字しか知らないからだ。
この便利な社会でも検索すら出来ない。

神田くんへ
僕は数年後にあれだけ行かないと言っていた東京に住んでいます。
神田明神にも何回も行きました。
ラブライブサンシャインは見てるのかな?
また話したいです。
恥の多い人生を相変わらず送っていますが楽しく過ごしています。
健康に気を付けて、また会える日を願っています。